「丘を越えて」かつての桜の名所 稲田堤へ

「♪丘を越えて行こうよ…」という歌手で有名な藤山一郎の『丘を越えて』。

言わずと知れた昭和の名曲だが、この曲が神奈川県川崎市多摩区稲田堤にゆかりのある曲だと知って稲田堤に行くことにした。

a0332275_17322364.jpg
稲田堤は南武線に稲田堤駅があり、京王相模原線にも京王稲田堤駅がある。2つの駅は400メートルほど離れていて、乗り換えはめんどくさいということで有名だ。

稲田堤駅がある周辺の地名は菅という。駅から数百メートル北へ行けば多摩川があり、堤という名前にふさわしい。
この地に南武線が通ったのは、1927年(昭和2年)のことだ。戦時買収前の南武鉄道の時代だ。駅開設当初からこの駅の名前は変わっていない。駅の名前を菅ではなく「稲田堤」にしたのは、当時稲田堤が桜の名所として広く知られていたことがあるようだ。

稲田堤駅前、写真右手の踏切は観光道踏切いい、ここにも当時の痕跡が残っていると言える。

a0332275_17323712.jpg
稲田堤駅前の通りを北へ10分ほど。多摩川のほとりへと辿り着く。

ここには 小田急バスの稲田堤折返場のバス停があり、そのバス停は手書きだというのは風情がある。

a0332275_17325513.jpg
多摩川の堤防に立つと桜の木はほとんど見当たらない。わずかに数本の桜が植わっているくらいだ。そもそも桜の名所ならマスコミにも多く取り上げられ知っているはずだ。

残念ながらこの地の桜の木は切り倒された過去があるのだった。

a0332275_17263669.jpg
『稲田堤の桜』角田益信 より
この地に桜が植えられたのは明治の頃だ。多摩川の堤防が改修され、日清戦争の戦勝記念して明治31年 にすぎ村の人々が総出で吉野桜の苗木を3本か5本ずつ持ち寄り植えたらしい。当時の目的は、多摩川が増水したときに伐採し、ナギに使用することだったそうだ。

北は矢野口の境、南は二ヶ領上河原堰までの約2キロに251本を植えた。後に一部が枯れたため、1917年(大正6年)にソメイヨシノなど325本を追加で植えている。
一時は関東で3本指に入るほどの桜の名所として知られたそうだ。

a0332275_17281605.jpg
1916年(大正5年)に、京王多摩川支線(多摩川原支線)(いまの相模原線)が調布駅から多摩川原駅(いまの京王多摩川駅)まで開通すると、京王電車によって「稲田堤」として広く宣伝された。稲田堤という名前は一説によると、このころついたとか。のちに南武線が開通し駅が開設された。

多摩川原駅は稲田堤とは多摩川隔てて反対側の駅で、多摩川支線が多摩川を渡り延伸されたのは、多摩ニュータウン開発の頃(1971年(昭和46年))まで待つことになる。

当時、多摩川に今ほど橋はなく、渡し船がまだ多くあった。稲田堤も例外でなく、菅の渡しや、上菅の渡しがあった。
花見の観光客は京王線に乗り、船で多摩川を渡って来たようだ。

a0332275_17334560.jpg
いまでは渡し船があった場所には碑が立っている。今ある橋の間隔よりも小さく渡し場があったところもあって、今でも渡し船があったら便利なのになぁ…と思うことはある。

a0332275_17340052.jpg
稲田堤にあった菅の渡しは、京王相模原線が延伸し多摩川を渡った2年の1973年(昭和48年)に廃止された。多摩川で最後まで残っていたのもこらしい。

渡し船はたいへん賑わったそうだ。



さて、「丘を越えて行こうよ真澄の空は朗らかに…」という歌詞で知られる藤山一郎さんが歌う『丘を越えて』。この歌は稲田堤にゆかりがある。

丘を越えてのメロディーを作った古賀政男は明治大学卒業前の春、マンドリン倶楽部の学友と稲田堤に行き、花見酒を満喫した。下宿に帰り学帽を脱いだとき、顎紐についた花びらを見てメロディが次々と湧いた…。ということだ。
古賀政男の青春がここ稲田堤にゆかりがあった。


その後、稲田堤の桜は道路工事などに伴って昭和30年頃に伐採されたそうだ。

a0332275_17333077.jpg
稲田堤から上流へ数百メートル。都県境付近の右岸には小さな桜並木があった。ここがこの辺りでは一番桜が密集してそうだ。

この辺りの多摩川の右岸にはサイクリングロードが整備されておらず、自転車乗りには酷評されている場所。この辺りから川崎市方面に向けて下流側は多摩川沿線道路があって、川沿いということもあり信号機が少ないからか、ダンプなど交通量が多い。歩道はない。

a0332275_17331393.jpg
桜並木には「稲田堤桜の碑」が立っていた。1922年(大正11年)に建立されたそうだ。

a0332275_17341978.jpg
稲田堤駅から府中街道方面へ行った脇に和菓子の「はしば」という和菓子屋がある。そこには丘を越えての発祥の地を由来として、和菓子の「丘を越えて」が売られている。稲田堤にわずかに残る桜を見ながら、和菓子を食べるのも良い。

ちなみに、噂によると、稲田堤駅の発車メロディ(発車前に鳴らすメロディのこと)を「丘を越えて」にしようという運動があるらしい。
乗り換える駅から、ちょっと足を伸ばして散策してみてはいかがだろうか。


(公開が桜の時期が過ぎた頃になってすみません)

参考資料
『稲田堤の桜』角田益信/1977/
『あゆたか44号』稲田郷土史会/2006
[PR]
by yunomi-chawan1 | 2016-04-24 00:00 | 散策 | Comments(3)
Commented by 稲美弥彦 at 2016-04-24 13:33 x
稲田堤駅は改良工事が行われるようですね。
それでも高架化した方が良いのは確かだが、それでも稲城長沼駅の高架化を見ると南武線には夕方の快速運行を始めると思われます。
理由は稲城長沼駅と武蔵中原駅が2面4線になっているからです。

南武線の稲城市はどちらかと言うと東京都心部よりも武蔵小杉や川崎等の川崎都心部の方が近いので、品川や東京への通勤だと武蔵小杉経由横須賀線に切り替える客も非常に多いからです。
Commented by yunomi-chawan1 at 2016-05-08 00:12
稲田堤駅は橋上駅舎にむけてデザインが決定し、現在土地の取得等が行われています。この他津田山駅等でも駅舎改良の予定ですが、川崎市内北部では稲田堤駅が優先だそうです。
南武線は他の路線に比べ乗換駅~乗換駅の利用が多いと言われています。JRは朝の快速運転は埼京線などで行われていますが、朝は中央線等でも通勤特快の運行は一部のみで鈍行列車をできるだけ多く走らせることに重点を置いているように思われます。現状、登戸より川崎側の運行は3分程度の間隔で非常に高密度で、ここに快速列車を走らせるのは難しいのではないかと思います。また快速列車に客が集中することも考えられます。
ただ、SNS等でも南武線の朝の快速運転の要望はよく見かけますし、利用者の念願ではありそうです。夕方なら快速運転できなくもなさそうですが。
Commented by 稲美弥彦 at 2016-05-10 05:56 x
確かに夕方なら快速運転は可能ですね。
それと、南武線の利用状況を見ると立川方面からの利用客の多くは武蔵小杉駅で横須賀線に乗り換えていくようだからそこから川崎方面は混雑緩和するようです。
だから今後の武蔵小杉駅~尻手駅間の高架工事で恐らく鹿嶋田が駅が2面4線にすると思われます。(矢向の待避線を鹿嶋田に事実上の移築。)
そうなれば、鹿嶋田折り返しが出来るので、川崎まで行く電車が多少、減るので快速運転がしやすくなります。
利用者の多い武蔵溝ノ口駅~武蔵小杉駅は快速も各停ですが、個人的には通勤快速で対処した方が良いと思います。


http://ricebowl.exblog.jp の続きです。鉄塔、鉄道、街作り、用水など。


by yunomi-chawan

プロフィールを見る

S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30

メモ帳

2015年にブログを移転しました。一部リンクが前のブログに飛びます。

まとめサイト等への画像の無断使用と引用を禁止します。

非公開コメントへの返信は基本的に行っておりません。

以前のブログ
過去のトップ画
ランダム表示
索引
地図から探す
送電線索引
継続記事検索
YouTube
大丸用水


カテゴリ

全体
恐怖シリーズ
ブログ
鉄道
鉄塔
散策
駅シリーズ
地域
米タン
道路計画や開通など
未分類

最新の記事

立川基地跡地昭島地区の道路開通
at 2017-04-28 00:00
小田良上平尾線・栗木線 開通
at 2017-04-25 22:00
町田3・3・36号相原鶴間線..
at 2017-04-24 08:00
セブン-イレブン1号店に行く
at 2017-04-23 09:00
築地から豊洲へ歩く その2
at 2017-04-22 08:00
築地から豊洲へ歩く その1
at 2017-04-21 19:00
南多摩尾根幹線 唐木田工区着..
at 2017-04-09 15:00
飛田給駅南口・西調布駅北口等..
at 2017-04-03 09:00
いるまがわ?いりまがわ? 調..
at 2017-04-02 00:00
2017年春の稲城ふれあいの森
at 2017-03-24 17:30

以前の記事

2017年 04月
2017年 03月
2016年 10月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月

最新のコメント

多摩地域の都市計画道路整..
by yunomi-chawan1 at 19:34
多摩地区はこの尾根幹線道..
by 稲見弥彦 at 23:41
30年前となると味の素ス..
by yunomi-chawan1 at 15:35
私が調布で暮らしていたの..
by tabinoirodori at 00:01
府中所沢線は西武国分寺線..
by yunomi-chawan1 at 17:44
建設途中区間にある西武国..
by 稲見弥彦 at 00:40

検索

タグ

(21)
(17)
(9)
(7)
(7)
(6)
(5)
(4)
(3)
(3)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(1)
(1)
(1)
(1)

記事ランキング